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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

雷の紋章を預かる、シンシア王国八将軍の主将。
情が先に走る、不器用でまっすぐな武将である。考えるよりも先に体が動き、理屈よりも人の気持ちを優先する。その性質は危うさと強さを同時に抱え、八将軍の中でも最も「人間らしい」存在と言える。
カドロは、仲間と民を守ることに一切の迷いを持たない。
命令や規則よりも、目の前で震えている誰かを選ぶ男だ。戦場では常に先頭に立ち、退路を作るより盾になる。その背中に救われてきた者は数知れず、八将軍が長く結束を保ってきた最大の理由の一つが、カドロという主将の存在にある。
一方で彼は、自身の情を誰よりも恐れている。
幼い頃の豪雨の日、崖崩れの中で弟を救えなかった記憶が、今も胸に深く残っている。最後まで手を握っていたはずなのに、気づいた時には弟の姿はなかった。その出来事は、彼の心に雷鳴のような後悔を刻みつけた。
雷の紋章は、恐怖の象徴ではない。
それは、情を捨てないという決意の証だ。
理性を優先すれば守れたかもしれない命よりも、それでも人を想う心を選び続ける。その覚悟が、雷という名に込められている。
カドロは英雄ではない。
迷い、怒り、悔やみ、それでも立ち上がる男だ。
守られた愛の記憶を胸に、再び前に立つことを選ぶ存在である。
雷のように激しく、雷が過ぎたあとの静けさのように温かい。
カドロは、八将軍の「心臓」であり、信じる心を体現する主将である。
Episode

カドロが雷を憎み、同時に雷を名乗る理由は、十三の頃に起きた出来事にある。
豪雨が続いた夜、山道で土砂が崩れ、兄弟は逃げ場を失った。空は裂けるように光り、雷鳴が何度も落ち、地面は揺れていた。弟が足を滑らせた瞬間、カドロは反射的に手を伸ばし、その手を掴んだ。
雨で視界は奪われ、雷の音で声も届かない。
それでも、彼は必死に握っていた。
守らなければならない。兄として、先に立つ者として、ただその思いだけで腕に力を込めていた。
だが、雷が落ちた。
白い閃光と轟音が一瞬ですべてを塗り潰し、カドロは反射的に目を伏せた。
次の瞬間、手の中にあったはずの温もりは消えていた。
弟の姿は、もうどこにもなかった。
その時から、カドロの中で真実は一つに固定された。
自分が、手を離した。
恐怖に負けた。雷に怯えた。情に任せた自分は、最後まで守りきれなかった。
彼はそう信じ続けてきた。
その後、誰が何を言おうと、カドロは考えを変えなかった。
理由を探すことも、言い訳をすることもなかった。
自分の選択だと決め、背負うと決めた。
だから彼は、雷を憎んだ。
だが同時に、雷から逃げなかった。
雷が落ちれば、前に出る。
雷鳴が轟けば、誰よりも先に立つ。
恐れを忘れるためではない。恐れを知ったまま、立ち続けるためだ。
雷の紋章は、贖罪であり、誓いである。
二度と手を離さない。
二度と恐れを理由に後ろに下がらない。
たとえ情が先に走ろうとも、それを理由に逃げない。
焚き火の夜、カドロはそう語った。
俺は、あの時、手を離した。
だからこそ、情を捨てない。
理性よりも、人を想う心を選び続ける。
それが、雷将として生きる理由だと。
彼にとって真実は、今も変わらない。
自分が手を離した。
その思いを抱えたまま、カドロは今日も先頭に立っている。
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