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Character Profile

221

ユシエルは、心の揺れを誰よりも敏く感じ取ってしまう少年である。
剣の素質は高く、型も覚えが早い。動きには柔らかさがあり、力に頼らず相手の間合いを読むことができる。だが、その才能は同時に彼を縛ってきた。

ユシエルは「読めすぎてしまう」。
相手の迷い、恐れ、決断の前触れ。そのすべてが一度に流れ込んでくるため、対峙した瞬間に足が止まる。剣を振る前に、心が揺れてしまうのだ。
それは臆病さではない。むしろ、共感が強すぎることによる混乱だった。

彼自身は、その性質を「弱さ」だと思っている。
強くなりたい。前に出たい。
だが、誰かを傷つけるかもしれないという想像が、剣を重くする。
だから彼は、自分を責める。
自分は向いていないのではないか、と。

師匠は、そんなユシエルを否定しない。
心を閉じることが強さではない、と教える。
揺れる心を抱えたまま立つことこそが、剣士の始まりだと。
ユシエルはその言葉を、まだ完全には理解できていない。
だが、理解しようともがいている。

ユシエルは優しい。
誰かの恐怖を見過ごせない。
だからこそ、人の多い場所や夜道では、残留する感情に飲まれやすい。
それでも彼は、逃げようとはしない。
揺れる自分を抱えたまま、前に進もうとしている。

彼はまだ未完成だ。
だが、未完成であることを自覚している。
それは、成長する者にだけ許された位置である。

ユシエルは、「揺れない心」をまだ持たない。
だが、揺れを抱えたまま立つ覚悟を、少しずつ身につけ始めている少年だ。

Episode

222

ある夜、ユシエルは一人で村外れの道を歩いていた。
稽古の帰り道だったが、心は落ち着いていなかった。
道場で教わった言葉が、胸の中で何度も反響していた。

歩くたびに、周囲に残った人の感情が流れ込んでくる。
怒り、後悔、不安、諦め。
それらが一斉に押し寄せ、足取りが乱れた。
ユシエルは木剣を握りしめ、立ち止まる。

「まただ……全部、読んでしまう……」

恐怖は、見えないものではない。
見えすぎることから生まれていた。

その時、ひとつだけ、奇妙な感覚が近づいてきた。
揺れがない。
雑音がない。
まるで空白のような心。

声がかかる。
「ねぇ、大丈夫?」

顔を上げると、そこにはワトレルが立っていた。
自然体で、何も構えず、ただそこにいる。

ユシエルは戸惑った。
読めない。
何も感じ取れない。
それが、恐ろしくもあり、同時に安らぎでもあった。

二人は星空の下で言葉を交わした。
深刻な説教はなかった。
励ましも、評価もなかった。
ただ、同じ夜を見上げ、呼吸を整えただけだ。

ワトレルの心は揺れていなかった。
それは強さではなく、「立ち位置」だった。

別れ際、ユシエルは衝動的に願い出る。
弟子にしてほしい、と。
ワトレルは笑って否定し、だが同時に言った。
守るための場所がある、と。

翌朝の城門。
その言葉が意味する先を、ユシエルはまだ知らない。
だが、その夜、彼は初めて「怖くない時間」を過ごした。

この逸話が語るのは、覚醒ではない。
救済でもない。
揺れる心が、前に進むための“入口”を見つけた夜である。

ユシエルは、まだ答えを持たない。
だが、答えを探す足取りは、確かに止まらなくなっている。

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