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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

イサオスは、シンシア王国第二王子。
第一王子ユータスが「理想」を掲げる光であるなら、イサオスは「現実」を受け止める大地のような存在だ。
彼は幼い頃から、王宮の中よりも外に目を向けて育った。
城下の空気、民の暮らし、喜びと疲労。
言葉ではなく、距離と温度で人を理解する性質を持っている。
華やかな演説より、沈黙の中で差し出される手を選ぶ王子だ。
イサオスは明るく、人懐っこい。
冗談を言い、子どもと同じ目線で笑い、兵や職人の名を自然に覚える。
それは計算ではなく、彼の本質である。
「王族である前に、人であれ」
彼はそれを、教えられるより先に、身体で理解していた。
一方で、彼は理想だけでは国が保てないことも知っている。
食料、兵、時間、人の限界。
それらを無視した善意が、かえって誰かを追い詰める場面を、何度も目にしてきた。
だからイサオスは、決断を恐れない。
時に誤解され、冷たい役を引き受けることも厭わない。
兄ユータスへの敬意は揺るがない。
理想を掲げ続ける兄の背中を、心から誇りに思っている。
同時に、その理想が折れてしまわぬよう、足元を支える役目を自分が引き受けるべきだと考えている。
二人は対立する存在ではない。
同じ未来を、違う角度から守ろうとする兄弟なのだ。
イサオスにとって「守る」とは、
信じる者の手を、最後まで離さないこと。
たとえその先に、苦しい選択が待っていようとも。
彼は王国の地面に立ち続ける。
誰かが理想を語れるように、今日を崩さぬために。
Episode

ある日、イサオスは単独で国境付近を訪れた。
視察という名目ではあったが、彼は王族の装いを避け、目立たぬ姿で歩いていたという。
国境の村は、静かだった。
騒ぎも争いもない。
だが、人々の表情には、言葉にされない疲れが滲んでいた。
イサオスは、ひとりの子どもと出会う。
痩せた身体で、空腹を隠そうともしないその姿を見て、彼は立ち止まった。
護衛も、命令もなかった。
ただ、自然に足が止まったのだ。
彼は問い詰めなかった。
事情を聞き出すこともしなかった。
代わりに、黙って隣にしゃがみ込み、同じ目線で呼吸を合わせた。
子どもはしばらく迷った末、小さな声でこう言ったという。
「信じていいのかな」と。
イサオスは即答しなかった。
軽い慰めを口にすることもしなかった。
少しだけ考え、そして静かに答えた。
「大丈夫だ。」
それだけだった。
後に同行者が、その短さを不思議がったという。
もっと立派な言葉を選ぶべきではなかったのか、と。
イサオスは笑って返した。
「言葉は裏切ることがある。でも、手は裏切らない。」
彼は約束を並べない。
未来を断言しない。
だが、目の前にいる誰かを、今この瞬間、置き去りにしない。
それが、第二王子イサオスのやり方だった。
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