テオがまだ少年だった頃、彼の暮らす村に疫病が広がった。
人々は次々と倒れ、家々は閉ざされ、村全体が沈黙に包まれていた。助けを呼ぶ声すら弱まり、誰もが終わりを予感していた。

テオ自身も病に倒れ、満足に声を出すこともできなかった。
そんな中で、ひとりだけ、村を歩き続ける存在がいた。
近所に住む、年上の少女だった。

彼女は、自分も病に侵されながら、毎朝、震える手で窓を開けて回った。
そして必ず、同じ言葉を口にした。
「今日も朝が来たよ。諦めなければ、必ず光は来るよ。」

その声は弱く、かすれていたが、不思議と人の心を支えた。
恐怖に飲まれそうになるたび、その言葉が、村の中に小さな灯を残した。

テオは、その少女の笑顔を見ていた。
自分がどれほど苦しくても、彼女は笑っていた。
怖くないように。
誰かが絶望しきらないように。

やがて、救いが訪れた。
疫病は収まり、外から人が来た。
生き残った者たちは、ゆっくりと立ち上がり始めた。

だが、その時、少女の姿はなかった。
彼女は、最後まで立ち続けたまま、静かに命を終えていた。

テオは、生き残った。
その事実が、彼の胸に重く残った。
なぜ自分が生きて、彼女がいないのか。
なぜ光を語った者が、先に消えたのか。

王妃マルセリーヌと出会った時、テオはその疑問を胸に抱えていた。
王妃は彼にこう告げた。
「あなたは生かされたのではありません。光を託されたのです。」

その言葉は、命令ではなかった。
選択だった。

テオは、笑顔を選んだ。
自分が倒れても、誰かが立ち上がれるように。
あの少女が灯した光を、消さないために。

テオの笑顔は、彼女から受け継いだものだ。
そして今日も、戦場と王宮で、静かに光を灯し続けている。

それが、光将テオという存在である。

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