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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

水の紋章を預かる、シンシア王国八将軍の副将。
コーゼルは、穏やかな笑顔と柔らかな物腰で人に接する男である。声を荒らげることはほとんどなく、剣を抜くよりも先に、人の話を聞こうとする。その姿は将軍というより、寄り添う者に近い。
八将軍の中で、衝突が起きた時、最後に場を鎮めるのは決まってコーゼルだ。感情が激しくぶつかる中で、彼は誰の肩も持たず、誰も切り捨てない。水が形を持たずとも流れを整えるように、対立する心を静かに包み込んできた。その在り方が、彼を副将という位置に押し上げた。
コーゼルは疑うことを好まない。
それは無知や甘さからではない。人を疑えば、いつか自分も疑われ、信頼の連なりが崩れていくことを、肌で知っているからだ。だから彼は、信じることを選び続ける。信じることが間違いだったとしても、それを引き受ける覚悟を持っている。
戦場においても、彼の剣は特異だ。敵を倒すためではなく、仲間の背後を守る位置に立つ。前に出て功を誇ることはせず、後ろから全体を支える。そのため、彼の武勲は派手に語られることは少ないが、コーゼルがいたから崩れなかった戦線は数えきれない。
一方で、彼の笑顔は、常に完全ではない。
その奥には、誰にも見せない迷いと後悔が沈んでいる。自分が笑っていた間に、何かを失ってしまったのではないか。あの時、別の選択があったのではないか。そうした問いを、彼は誰にも打ち明けず、胸の内に抱え続けている。
それでもコーゼルは笑う。
誰かが不安に揺れる時、恐怖に飲まれそうな時、その感情を真正面から受け止めるために。彼の笑顔は、軽さではなく、痛みを知った者が選び取った強さだ。
水将コーゼルは、剣で導く将ではない。
信頼と忍耐で、国と仲間をつなぎ止める存在である。
Episode

水将コーゼルが笑顔を失わない理由は、幼い頃に経験した一つの出来事に根差している。
それは、彼がまだ将でも兵でもなく、ただの兄だった頃の話だ。
村が大きな水害に見舞われた日、冷たい水が一気に押し寄せ、人々は逃げ場を失った。
家々は流され、夜の闇と雨音の中で、恐怖だけが広がっていた。
その混乱の中で、コーゼルは妹を抱きかかえていた。
水は容赦なく体温を奪い、足元の感覚はすぐに失われた。
それでも彼は、その場から動こうとしなかった。
逃げるよりも、離すよりも、抱いていることを選んだ。
妹の震えが伝わるたびに、彼は声をかけ続けた。
大丈夫だ、怖くない、必ず助かる。
そう言いながら、笑顔を崩さなかった。
それが正しいかどうか、考える余裕はなかった。
ただ、怖がらせたくなかった。
泣かせたくなかった。
兄として、最後まで安心させていたかった。
やがて救助が入り、水は引いた。
コーゼルは最後まで立っていた。
だが、腕の中の妹は、もう動かなかった。
その瞬間から、コーゼルの中で一つの思いが固定された。
**自分は、守れなかった。**
笑顔でいることを選んだ自分は、声を上げるべきだったのではないか。
もっと必死に助けを求めるべきだったのではないか。
笑顔は、無力だったのではないか。
その問いは、彼の心から消えなかった。
それでも、コーゼルは笑うことをやめなかった。
いや、やめられなかった。
恐怖の中で、誰かの表情ひとつが、どれほど心を支えるかを、彼は知ってしまったからだ。
後に知る真実は、彼にとって残酷であり、同時に救いでもあった。
妹は、兄の笑顔を見ていた。
最後まで、怖がらずにいられた。
兄が笑っている限り、兄は無事だと信じていた。
だがコーゼルは、その事実を知っても、自分を赦すことはなかった。
守れなかったという思いは消えず、胸の奥に沈んだままだった。
だから彼は、水の紋章を選んだ。
流れを止めず、受け止め、包み込む存在であるために。
誰かが恐怖に沈む時、せめて心だけは沈ませないために。
コーゼルの笑顔は、天性のものではない。
失った後に選び続けてきた、覚悟の表情だ。
水将コーゼルは今日も笑っている。
守れなかった過去を抱えたまま、
それでも誰かの恐怖を和らげるために。
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