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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

ワトレルは、薔薇の騎士団を率いる隊長である。
剣を振るって威圧する指導者ではなく、場の空気を整え、人の心を落ち着かせる存在として立つ男だ。穏やかな表情と柔らかな口調を崩さず、誰に対しても同じ距離で接する。その姿は一見すると頼りなく映ることさえあるが、騎士団の中で彼の立場が揺らいだことは一度もない。
ワトレルの強さは、力を誇示しない点にある。
部下の前に立つ時も、命令を声高に叫ぶことはない。代わりに、自分の立ち位置を示し、背中で方向を伝える。力任せのリキハルトには「力は守るためにある」と静かに釘を刺し、寡黙なコーリックとは短い視線と頷きだけで意思を通わせる。緊張しやすいユシエルには、自らの背後に立たせることで安心を与える。
それぞれの性質を把握し、矯正するのではなく、活かす形で導くのがワトレルのやり方だ。
薔薇の騎士団が重んじるのは、剣技だけではない。
礼節、清廉さ、そして仲間を先に考える心。
ワトレルは、それを理念として語るが、決して押し付けない。自分が率先して実践し、周囲が自然と倣う形を作る。だから団は、緊張感を保ちながらも、どこか温度を失わない。
ワトレル自身は、自分を「守る側の人間」だと明確に認識している。
英雄になろうとはしない。
目立つ戦果も求めない。
誰かが前に出る時、その背中を守る位置に立つ。
その姿勢は、騎士団の内側だけでなく、王家や宰相との関係にも通じている。
彼は、剣で守る者と、言葉で守る者の違いを理解している。
だからこそ、剣を持たぬ者の覚悟にも目を向ける。
ワトレルの視線は常に広く、戦場だけでなく、人と人の関係そのものを見ている。
穏やかで、静かで、強引さのない男。
だが、崩れる直前の背中を支える力は、誰よりも強い。
それが、薔薇の騎士団隊長・ワトレルという人物である。
Episode

境外の小さな村で、強盗被害が相次いでいた。
限界まで追い詰められた村長は、王子イサオスと宰相リョーマ、そしてワトレルの前で声を荒げた。
「今すぐ守ってくれ」
それは嘆願というより、怒りに近い叫びだった。
イサオスは誠実だった。
だからこそ即答できず、王の判断が必要だと伝えるしかなかった。
その慎重さは正しいが、追い詰められた者の心には届かない。
怒りの矛先は、王子へと向き始めていた。
ワトレルは、そのやり取りを一歩引いた場所で見ていた。
剣に手をかけることはなかった。
声を荒らげることもなかった。
ただ、空気の変化を感じ取っていた。
その瞬間、リョーマが前に出た。
冷静な声で、道理を告げる。
規則を示し、責任を引き受ける。
村長の怒りは、一気に宰相へと集中した。
イサオスは、その背中を見て言葉を失った。
ワトレルもまた、何も言わず、その光景を見つめていた。
帰り道、夕陽に照らされた坂道で、三人は並んで歩いた。
沈黙の中、ワトレルは理解した。
守るという行為には、剣だけでは届かない領域がある。
誰かが憎まれ役を引き受けることで、別の誰かが守られることもあるのだと。
ワトレルは、その背中を記憶に刻んだ。
剣で守る者として。
そして、守るべき背中を見極める者として。
この逸話が語るのは、派手な戦果ではない。
ワトレルが「何を守ると決めたか」という、その日の静かな転換点である。
だが、その決意がどこへ向かうのかは、まだ語られていない。
薔薇の騎士団隊長ワトレルは、今日も笑顔で立っている。
守ると決めた日から、背負うものが増えたことを、誰にも語らぬまま。
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