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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

ヒラムは、シンシア王国・祝祭工房の主任である。
発明家であり、職人であり、そして王国で一番「空気が読めないようで、実は一番読めている男」だ。
いつも穏やかで、にこにことしている。
急げと言われても急がず、失敗しても深刻にならず、問題が起きても「まあまあ」と笑って受け止める。
その態度のせいで、初対面の者からはよく「この人、本当に大丈夫か?」と心配される。
だが、祝祭工房が今まで一度も崩壊せずに回ってきた理由は、間違いなくヒラムにある。
彼は怒鳴らない。
命令しない。
責任を押し付けない。
その代わり、「楽しそうかどうか」を常に見ている。
工房の人間が疲れていれば、理由も聞かずに休ませる。
喧嘩が起きれば、真ん中に立って「お腹空いてない?」と聞く。
そしてだいたい、そのまま事態は収束する。
ヒラムにとって、ものづくりとは「完璧であること」ではない。
「作ってる本人が楽しいかどうか」が最優先だ。
そのため、工房には時々、とんでもなく派手で、意味がよく分からない装置が生まれる。
本人はそれを見て満足そうに頷き、「うん、きれいだね」と言う。
王都の人々は知っている。
祝祭工房の仕事は、実用以上に「気分が上がる」。
国が不安定な時ほど、工房は騒がしくなり、色彩は派手になり、意味不明な飾りが増える。
それは偶然ではない。
ヒラムが、意図的にそうしているのだ。
彼は剣を持たない。
政治も語らない。
だが、人が笑える空気を守ることで、王国を下から支えている。
ヒラムは、祝祭工房の心臓である。
軽く、明るく、少し抜けていて、
それでも確実に、皆を前に進ませる存在だ。
Episode

ある日、ヒラムは突然、工房の真ん中で宣言した。
「王を驚かせる発明を作ろう」
理由は誰にも分からなかった。
本人も、たぶん分かっていなかった。
巻き込まれたショーンは青ざめ、ツノフは頭を抱えた。
「何を作るんですか?」
そう聞かれて、ヒラムはしばらく考え、こう答えた。
「すごいやつ」
それから三日三晩、工房は大混乱に陥った。
ヒラムは派手な装飾を付けたがり、
ショーンは精密さを追求しすぎ、
ツノフは安全面で常に悲鳴を上げていた。
完成したものは、
大きくて、重くて、派手で、
用途がまったく分からなかった。
それでもヒラムは胸を張った。
「これはね、世界を変える」
王の前で披露された発明品は、
動かなかった。
叩いても、引いても、説明しても、何も起きなかった。
沈黙の中、ケイゼル王は一言だけ言った。
「……役に立たん。だが、ご苦労」
普通なら落ち込む場面だった。
だが工房に戻る途中、ツノフがぽつりと言った。
「帽子置きにしたら、王が使うと思うよ」
ヒラムはその瞬間、吹き出した。
「それ最高じゃん」
その後、その発明品は本当に王の部屋で帽子置きとして使われた。
ヒラムはそれを見て満足そうに頷いた。
「ほら、役に立った」
祝祭工房では、今も語られている。
ヒラムの発明は、たいてい意味不明だが、
最後には必ず「誰かの役に立つ」と。
笑いと失敗と、少しの奇跡。
それが、ヒラムという男の作り出す祝祭なのだ。
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