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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

ネイロという存在について、確かなことはほとんど語られていない。
年齢も、出自も、正確な役割さえ不明である。
深い森の奥、苔むした小さな館に住む青年。ある者はそう呼び、ある者は「鏡の主」と囁く。
彼は多くを語らない。
問いかけても、答えは曖昧で、視線は過去とも未来ともつかぬ場所を映す。
喜びや悲しみといった感情はあるはずなのに、それを表に出すことはない。
まるで、感情そのものを“記憶として抱えている”かのようだ。
ネイロの周囲には、時間の感覚が希薄である。
昼と夜、季節の移ろいさえ、彼の存在を基準にすると意味を失う。
彼は待っているようにも見え、すでにすべてを見終えたようにも見える。
時折、館の中から微かな旋律が聞こえるという。
それが誰のための音なのか、なぜ弾かれているのかを知る者はいない。
ただ、その音を耳にした者は、不思議と「懐かしさ」を覚えると語る。
ネイロは生きているのか、残されているのか、それとも記憶そのものなのか。
答えは示されない。
彼は物語の外縁に立ち、すべてを映し、すべてを見送り、そして何も語らない。
ネイロとは、
愛された記憶だけが、かろうじて形を保っている存在なのかもしれない。
Episode

光が、ふいに揺れる。
幼い笑い声のようなものが聞こえた気がして、次の瞬間にはもう消えている。
指先に残る温度は、誰のものだったのか分からない。
鏡の縁。
そこに触れた手の跡。
呼ばれた名は、途中で途切れ、音にならなかった。
風。
白い布が翻り、結ばれる髪。
深呼吸の前の、ほんの短い沈黙。
遠くで扉が閉まる音。
重なった影。
抱きしめられた感覚だけが、なぜか鮮明に残っている。
海の青。
土に埋められる小さな光。
祈りだったのか、約束だったのかは思い出せない。
そして、最後に微笑み。
それだけは、理由もなく、確かに残っている。
記憶は順番を持たず、意味も語らない。
ただ、流れ、重なり、消えていく。
ネイロはそれを眺めながら、名前のない想いを、今日も胸にしまっている。
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