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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

ショーンは、シンシア王国祝祭工房に所属する細工師である。
物腰は柔らかく、声は低く穏やか。誰の話も最後まで聞き、決して遮らない。その佇まいは安心感があり、工房では「一番話しかけやすい男」として知られている。
だが、ショーンを単なる温厚な職人だと思う者は長くはもたない。
彼は祝祭工房の中で、最も精密で、最も理詰めで、最も容赦のない現実主義者だ。感情や勢いで物を作らず、必ず構造と理屈を確認する。ヒラムの突飛な発想を図面に落とし、ツノフの安全確認を形に変える。祝祭工房の「実現担当」がショーンである。
ショーンは自分が目立つことを好まない。
派手な装置が完成しても、喝采の中心に立つことはなく、少し離れた場所で全体を眺めている。成功しても誇らず、失敗すれば静かに修正点を挙げる。その態度は控えめだが、工房にとっては不可欠な存在だ。
彼の言葉は少ない。
だが、時折放たれる一言は鋭い。
誰も触れようとしない問題点を、淡々と口にする。
「それ、壊れますよ」
「理論上は無理です」
「時間が足りません」
その言葉に感情はない。あるのは事実だけだ。
ショーンは、ものづくりにおいて「嘘」を嫌う。
できないものを、できると言わない。
危険なものを、安全だとは言わない。
祝祭という華やかな世界の中で、彼は唯一、夢と現実の境界線を正確に引く役目を担っている。
一方で、彼は工房の空気を壊さない。
否定する時も、声を荒らげず、相手の逃げ道を残す。
それは優しさであり、同時に強い覚悟でもある。
誰かの夢を壊すなら、最小限に留める。
それがショーンの流儀だ。
ショーンは祝祭工房の「静かな背骨」である。
騒がしく、無茶で、笑いの絶えない工房が崩れないのは、彼が黙って支えているからだ。

祝祭工房で、ある大きな装置を作ることになった時の話だ。
見た目は華やかで、祝祭にふさわしい壮大な仕掛け。ヒラムは楽しそうに構想を語り、ツノフは安全面を心配しながらも現実的な調整を進めていた。
その時、ショーンは図面を前に黙り込んでいた。
誰よりも早く気づいていたのだ。
その装置は、理論上は成立するが、実際には極めて不安定だということに。
ヒラムが尋ねた。
「どう?いけそう?」
ショーンは少し間を置いてから答えた。
「……完成はします。ただし、条件付きで」
条件の説明は細かく、面倒で、聞いている側が眠くなるほどだった。
その結果、ヒラムは首を傾げ、ツノフは腕を組み、工房の空気は微妙に沈んだ。
「じゃあ、やめる?」
ヒラムが冗談めかして言った。
ショーンは即座に否定しなかった。
代わりに、もう一枚、別の図面を出した。
それは、当初の案より地味で、規模も小さく、目立たない構造だった。
「こっちなら、確実です」
派手さはなくなる。
見栄えも少し落ちる。
祝祭としては物足りないかもしれない。
一瞬、誰も言葉を発しなかった。
だが、ツノフがうなずいた。
「……こっちだな」
ヒラムは少しだけ残念そうに笑った。
「そっか。じゃ、こっちにしよう」
その装置は、無事に完成した。
事故もなく、トラブルもなく、誰も怪我をしなかった。
祝祭は滞りなく終わり、観客は何事もなかったかのように帰っていった。
後日、ヒラムがぽつりと言った。
「派手じゃなかったね」
ショーンは答えた。
「ええ。でも、最後まで見られました」
その意味を、誰も深くは問わなかった。
ショーンも、それ以上語らなかった。
祝祭工房では今も言われている。
「ショーンが黙ってる時は、だいたい正解だ」
彼の逸話は派手ではない。
だが、その沈黙が、何度も祝祭を救ってきたことだけは、皆が知っている。
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