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With You Joyous Times Are Here Ⅶ
『The Promise of Eglantine』~ある小さな王国の物語~公式サイト


Character Profile

リキハルトは、若くして並外れた力を持つ剣士である。
体格、腕力、剣速、そのどれもが同世代を大きく上回り、本人もまたその力に強い自負を抱いていた。将軍になることを夢見て日々鍛錬を重ね、誰よりも努力しているという自覚もあった。
だが、その強さは未熟さと表裏一体だった。
礼儀は上の者にだけ向けられ、同年代や弱者には粗野な態度が目立つ。力で押し切れる場面では相手を見下し、勝利そのものを自分の価値の証明だと信じていた。
リキハルトにとって「強い」とは、勝つことだった。
師匠が士官を許さなかった理由を、彼は理解できずにいた。
自分より弱い者が城に上がり、自分は足止めされる。その事実が苛立ちを生み、焦りとなり、力への執着をさらに強めていく。
彼はまだ、自分が何に守られてきたのかを知らなかった。
リキハルトの欠落は、力ではない。
背負うものがないことだった。
誰かの生活、誰かの明日、誰かの恐怖。
それらを自分の剣の重さとして感じたことがなかった。
彼は誠実ではある。
嘘をつかず、逃げもしない。
だが、その誠実さは「自分に対して」向いており、他者には向いていなかった。
だからこそ、力を振るうことに迷いがなかった。
この物語のリキハルトは、「力を持つ者が必ず通る未熟さ」を体現している存在だ。
力があるからこそ許されないことがある。
力があるからこそ、背負わねばならないものがある。
その境界に立つ人物である。
Episode

ある日、リキハルトは街へ向かう途中で、荷物を抱えた男と口論になった。
些細な衝突だった。
だが、リキハルトの胸には鬱屈した思いが溜まっていた。
師匠に認められない苛立ち。
力があるのに、進めない焦り。
口論は、やがて決闘へと発展した。
剣を構えた瞬間、勝敗は明らかだった。
リキハルトは圧倒的な力で男を打ち倒し、地面に膝をつかせた。
勝利の余韻は甘かった。
「やはり自分は強い」
その確信が、彼の胸を満たしていた。
だが次の瞬間、小さな影が駆け寄った。
倒れた男の娘だった。
幼い手で父の手を握り、震える声で問いかける。
今日も働けないの?
ごはんはどうなるの?
その言葉は、剣よりも重く、リキハルトの胸に突き刺さった。
彼は初めて、自分の勝利が誰かの生活を奪いかけている現実を目の前にした。
男は言い訳をしなかった。
自分はただ、守るために戦っただけだと、静かに語った。
誇りも、怒りもなかった。
そこにあったのは、生活を背負う者の覚悟だった。
道場に戻ったリキハルトは、初めて剣を重く感じた。
師匠は言った。
足りなかったのは力ではない、と。
その夜、リキハルトは理解した。
自分は強かったが、何も背負っていなかった。
守られていることすら知らず、力だけを振り回していたのだと。
この逸話が示すのは、敗北ではない。
勝利の裏側で初めて知った現実である。
その気づきこそが、リキハルトを次の場所へ進ませた。
彼は剣を捨てなかった。
だが、振るい方を変える決意をした。
その先に何があるのかは、まだ語られていない。
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